昔のこと

帰郷するたびに言われるセリフがある。
「お帰りはおひとりですか?」
一度だけ、「2人で…」とボケたら、
騒然となったことも。
余計なお世話だとも思いつつ、
親戚縁者でも、25歳Overで独り身なのは、
なんとオレだけとなってしまった今日この頃。
盆や正月といった、大量の人員が集まる時期には、
確かに手持ち無沙汰というか、何やらこころもとないのも事実である。
結局毎回、子どもたちのお相手に奔走する羽目になるのだけれども。
おかげさまで、幼児と老人には大人気です。
ま、田舎は婚姻ごとが早め早めではあるのだが、
ちょっと帰省期間を長めにして滞在していると、
なんだか、結婚時期が遅い首都圏の方が異常なのでは…と
洗脳されてくる。
そして今回、昨年結婚の(結婚式では私が友人代表スピーチもした)
最親友におめでたが発覚。
まだ妊娠8ヶ月ながら、すでに名前まで決めている幸せ街道ばく進のご様子。
周囲の幸せっぷりを眺めつつ、素直に祝いたい気持ちは湧いてくるんだが、
自分がそちら側のプレーヤーになろうとはあまり思えてこない。
別に女性が嫌いなわけではない。むしろ大好きであります。
余談だが、以前真剣な顔で
「ずっと男色系なのかと思ってました♪」
と言われたことがある。
いや拙者、ノンケですから!つーかそんなツッコミは期待してませんから!
ただ、躊躇なく問答無用に相手を好きになることには抵抗がある。
トラウマというか何というか。
大学三年の秋、そう、21の秋ですね。そこで体験したことが
未だに尾を引いているんだろうか。
若かった、ただひたすらに若かった、それも紛れもない事実。
されど、それゆえに刻まれた衝撃は、あまりに重かった。
時計をさらに巻き戻すとしよう。
彼女との出会いは、大学一年の夏。
「稲妻に打たれた」
なあんて陳腐な表現が、己の身に降りかかろうとは。
彼女をひと目見た瞬間から、
もうヤラレてたのですな、これが。
たまたま学部が同じで、共通の知人もいたせいで、
そのうち一緒に授業受けたり、ゴハン食べたりが当たり前になっていった。
好きな作家とか、聴く音楽とかもモロかぶりで。
モノゴトの考え方とか、大事にするモノとか、要は価値観的なものが
結構近いのもあって。
一緒にいるだけで楽しくて仕方がなかった。
でも、彼女と一緒にいられるのは、ほんの短時間。
休日のデートなどはあり得なかった。
そう、彼女には素敵なカレがいた。
2つ年上のカレは、スポーツ万能で頭もキレる。
男のオレから見ても、抜群のイケメンだった。
彼女がカレの自慢をするたび、
彼女がカレの不満を口にするたび、
オレは顔だけ笑っていた。
こんなに近くにあっても、決して届かないこの感情。
それでも、自分の好きなコの側にいられるだけで
十分なんだと言い聞かせて。
とはいえ、カレの誕生日プレゼントの相談とかは
発狂しそうになったりもしつつ。
そんなこんなで2年近くの月日が過ぎていった。
その間、オレはオレで何人かのコと付き合ってはみた。
皆いいコで、可愛かったと思う。
でも若すぎたオレは、どうしても彼女とくらべてしまっていた。
知らず知らずのうちに。
そして愛想を尽かされる、というパターンの繰り返し。
もったいない。
「また振られちゃったよー」
と彼女に言うと、
「どうせ高望みすぎるんでしょー」とかいうツッコミをされたり。
オレの望みは…口に出せるはずもなく。
この関係を、側にいられるこの状態を、
壊してしまうことだけはしたくなかった。
そんな大学三年の初夏だった。
「私…カレと別れたの」
「は?」
いくつになっても、アドリブのきかないオレ。
「浮気されちゃった。どうしても許せなかったの」
「な…なんでこんな可愛い彼女がいながら」
「カレは向こうから誘ってきたって言ってるけど、関係ないよね」
「まあな。結果は同じだからな」
これほど、さみしそうな、哀しそうな彼女を見るのは初めてだった。
でも、、、そんな彼女さえも綺麗だと思ってしまうオレがいた。
「ま、男は星の数ほどいるから、元気だしなよ」
「ふふ。ありがと。キミが私のカレだったらよかったのにね」
             キター
             キター
             キター
「はは。心にもないこというんじゃねーよ」
内心はガクガクブルブルだった
彼女の心に空いてしまった穴が言わせたセリフだったしても、
オレにとってはヘビー級の右ストレートだった
「冗談なんかじゃ、、、ないんだけどな」
非常事態発生です、姐さん!
もう当方の処理能力では対処しきれません!
至急応答願います!
なんだこの展開は。
昼ドラかこれは。
ホントにいっぱいいっぱいな状況に、オレは笑って誤魔化すしか
為す術がなかったのだった。
その場は黙って別れた。
「ずっと前から、会ったときから好きだった」
とでも言えばよかったのか。
彼女だって、別れたショックから冷静さを欠いていたに違いない。
あそこで無理に急展開させたとして、
今の関係をぶち壊すのだけはなんとしても避けたかった。
しばらく、考える日々が続いた。
長く一緒に居すぎたせいで、
今さら告白なんぞ、できそうもない。
オレは手紙を書いた。
分量にしたらそう、原稿用紙4,5枚になるんじゃなかろうかと
いう物凄い長さ。
自分の彼女に対するこれまでの思いをただひたすらに書き連ねたものだった。
さてこれをどうするか。
思い余ったオレは、なんと彼女に渡してしまう。
「ちょっとコレ読んで」
「なんなの改まって」
「いいからいいから」
「ちょっ…えっ…」
無言で手紙に目を落とす彼女。
時間がひどくゆっくり流れてる気がした。
「なんとなく分かってた」
「へ?」
「とっても嬉しい」
「そう」
「次の日曜日、どこ行く?」
それが彼女のOKサインだった。
夢にまで見た光景が、オレの前に広がっていた。
ずっと好きだった女性が、
オレだけを見ている。
信じられなかった。
だが、それは確かに、信じてはいけない日々だったのである。
付き合いだしてから3ヶ月、ある噂を耳にすることになる。
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「昔のこと」への2件のフィードバック

  1. やばい ちょっとこれは軽く読めなそうなので
    明日ゆっくり読むことにします。
    とりあえずマチルダさんが微妙に変わっているのに笑いました。

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